羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「月が、出ていたものですから」
どこか遠い目をする警備員の顔は、恍惚なものだった。
「僕はこの月の出る夜が、好きなんですよね」
彼はなかなかロマンチックな嗜好の持ち主のようだ。
珍しいな、と酒童は思う。
思うが、彼が笑った際に垣間見える犬歯の鋭さのほうに、どうしても目がいってしまった。
刹那。
だあんッ―――と。
銃声が夜の大通りに鳴り渡った。
「朱尾!」
酒童は思わず叫んだ。
なんの前触れもなく、朱尾がその猟銃で警備員の脚を撃ち抜いたからである。