羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



「月が、出ていたものですから」


 どこか遠い目をする警備員の顔は、恍惚なものだった。


「僕はこの月の出る夜が、好きなんですよね」


 彼はなかなかロマンチックな嗜好の持ち主のようだ。

 珍しいな、と酒童は思う。

思うが、彼が笑った際に垣間見える犬歯の鋭さのほうに、どうしても目がいってしまった。

 刹那。



 だあんッ―――と。



 銃声が夜の大通りに鳴り渡った。



「朱尾!」



 酒童は思わず叫んだ。


 なんの前触れもなく、朱尾がその猟銃で警備員の脚を撃ち抜いたからである。









< 173 / 405 >

この作品をシェア

pagetop