羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
朱尾の背後で、酒童も刀に手をかけた。
今にも鯉口を切らんばかりである。
―――ぐるるるる……。
警備員が、あまかも餓狼のように涎を垂らしていた。
「なんだありゃあ」
興奮状態にあった榊も、呆然とした。
「……変だぞ」
酒童は呟いた。
警備員の様子だけではない。
彼の口から漂う口臭が、なんというか、人間らしくない。
中年男性の加齢臭でもない。
朱尾の言うところの、「犬臭い」なのだ。
「酒童さん!」
桃山が声をあげた。
みれば警備員の顔や手の甲からは栗色の体毛が生えだし、鼻と口が突出し、整った顔立ちはみるみるうちに崩れていった。
筋肉が盛り上がったのか、びりり、と制服が破け、硬そうな剛毛が露わになる。
「ちっ」
朱尾が引き金を引くと、再び銃口が火を吹いた。
しかし、弾は警備員に当たらなかった。
警備員、の、姿をしたなにかが、猟師が引き金を引くよりも先に、その場を退いたからである。
「逃げやがった」