羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
朱尾が舌打ちをする。
榊は若干気まずそうな顔になりつつ、抜刀して酒童の傍にそう。
「人間にしちゃあ、おかしいほどの身のこなし、っすね。
……俺には、分からなかった」
榊の物言いは、先ほど感情に任せて朱尾を責めた自分を叱責しているようでもあった。
それは俺も同じだ。
やつが人間じゃないということに、はやく気づくことができなかった。
酒童はそう言いたくなったが、それは後回しだ。
(あいつは、なんだ?)
いまだに犬の臭いが、鼻にこびりついている。
昔のゲームに登場する西洋の化け物には、《人狼》または《ワーウルフ》、俗にいうオオカミ男というものがいるが、ああいうものに関しては、討伐事例がまったくない。
過去200年のうちでも、そんな西洋妖怪は発見されなかった。
だから、人狼というのは架空の西洋妖怪であり、現実では存在しないものと認識されていた。
しかし、酒童はさらに、いままでは未知だった現実を突きつけられたのだった。
(やつら、人に化けることもできたのかっ!)
羅刹も、一般人も、まさか人の皮をかぶった西洋妖怪が、人間社会に溶け込んでいるなど知るはずもなかった。
日本人の認識における西洋妖怪といえば、もっとこう理性がなくて、例え体つきが人に似ていても、獣のように獲物を食い荒らす生物でしかなかった。
それがいま、覆された。
西洋妖怪のなかには、理性を保てるものがいる。
それが、日常生活に溶け込みながら、水面下まで迫ってきている可能性がでてきた、ということになるのだ。