羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》


 羅刹たちが各々で距離をとって散る。

 人狼は酒童の上に降ってきた。

 スリムに引き締まっていた身体はいつの間にか筋肉が盛り上がり、レスラーも顔負けの体格に変じている。

体長は酒童とあまり変わりはしないが、それでも腕の太さや地に響く重量感から察するに、異常な骨密度と筋肉の体重を誇っているに違いない。

木の枝のような酒童の腕とは、対象的に。

 そんな屈強なる人狼の腕が、やせっぽちの羅刹に振りかざされた。


(やべっ)


 酒童は本気で後方に飛びのいた。

 あんな腕で殴られたら、ひとたまりもない。

 自分の……人間の骨など一撃で粉砕されるだろう。


「くっ」


 酒童は跳躍すると、傍のビルに跳ぶ。

 人狼の小岩のような拳が、アスファルトを殴打する。

硬く、熱に弱くも強度は強いアスファルトが、いともたやすく砕けた。

 しかし幸いにも、人狼の力が強すぎたゆえに、拳がアスファルトにのめり込んだらしい。

人狼は身動きを取らなくなった。

 酒童はそこの壁を強く蹴り、人狼に向かって村雨丸を振った。

 ざっくり、と。

 人狼の左手首が落ちる。

 休む暇など与えない。

ふっと人狼の体毛を風が撫でた刹那、酒童の姿は右腕のあるほうにあった。

しかし姿が確認できた頃には、遅かった。

 酒童が右手首を落とした。


「おおおおおッ」


 人狼が痛みからか、天に向けて大きく吠える。

 いまだ。

 酒童はその太い首めがけて、刀を横殴りに振り下ろした。

 鋭利な刃が月光を弾き、青白い軌跡を描いた。







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