羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
どうん、と銃声と共に放たれた弾丸が、酒童に気を取られていた人狼の肩を貫く。
見れば、さきほど切り落としたはずの左手首が完治している。
なんという再生の早さか。
酒童は愕然とした。
羅刹でさえ、落ちた腕が元どおりになるには1週間以上の時間を要するというのに。
人狼が朱尾を睨みつけた。
刹那。
その巨体は朱尾の直前にあった。
人狼の腕が風を切った。
辛うじて首元を庇った朱尾の左腕に、ざっくりと、5本もの紅蓮の線が走る。
血飛沫が軽く飛ぶ。
「あか、お……」
酒童は地面に這いつくばったまま、必死に立ち上がろうと尽くした。
しかし身体は命令を聞かない。
「もも、やま」
「はっ、はいっ」
榊が朱尾の応援にゆく一方で、酒童に駆け寄ってきた桃山に、酒童は震える声で指示した。
「お前、は、逃げろ。
出来る、だけ、近、く、の、奴らに、応援、を、要請、しろ……」
「酒童さんは……」
「ほっ、とけ」
凄まじい形相で言う酒童に、桃山は何度もうなづいて、携帯電話を片手に、どこかへと駆け出して行った。