羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



3



 朱尾は自分に不利な平地戦であるにもかかわらず、ビルに登ろうとはしなかった。

 結界が施されたビルに逃げ込めば、人狼の狙いは自分から、それ以外の獲物に変わる。

 現時点でもっとも動きがのろく、仕留めやすい動物を。


 させない。


 朱尾は決意していた。

 酒童は、絶対に殺させない。

殺させてはならないのだ。

彼のような人間は、早死にするべきではないのだから。


 唾を垂らし、上下で4本にもなる牙を晒す人狼に、朱尾は捨て身の覚悟で銃を捨て、下から重いアッパーの一撃をぶつける。

 がちん、と開かれていた口が閉ざされ、歯と歯が思い切り噛み合う。


「うらぁッ」


 よろめいた人狼の脇に、朱尾は体重を乗せた上段の蹴りを入れる。

骨密度が高く、頑強な筋肉にくるまれた脚が、その肉体に甚大な負荷を与える。

 ぐきりと嫌な音がして。

 人狼の右腕が垂れた。

どうやら、肩が外れたらしい。

 訓練生時代の喧嘩の腕は、未だ衰えていないようである。

朱尾はすぐさま鉄砲を拾うと、それを人狼に向けた。


(死ね!)


 ずがん、と。

 朱尾は発砲した。





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