羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
だから、羅刹の《狩り》の跡地を見つけて報道するのだ。
テレビで流れている映像は、昨夜に酒童たちが狩ったものではない。
おそらく、別の県か、別の町の西洋妖怪だろう。
「今日も、死者は皆無か」
酒童はそんな独り言を零した。
ー建造物の結界施工の義務化。
ー羅刹の結成。
ー日本刀の強度の発達。
ー呪法班による技術の発展。
それらによって、日本人はここ10年、西洋妖怪による死者を出していない。
いや、羅刹の隊員がドジを踏んで死んだという例はあるが、それはあくまで個人の問題であり、西洋妖怪の力量差による死ではない。
「隣町の駆除現場だね、これ」
不意に横から顔を出してきた陽頼が、画面の右上に一瞥をくれる。
「ああ、めでたいことに、昨晩も死者は皆無だってよ。
日本全国で」
西洋妖怪は、厄介なことに日本列島全土に分布している。
だから《羅刹》も、その後を追うように、47都道府県へ置かれている。
すると、電子レンジが小刻みに音を立てた。
「あ、煮豆できたよ」
興味津々で眺めていたテレビの画面から顔を逸らし、陽頼は冷蔵庫の隣に設置された電子レンジに駆け寄る。
(あいつ和風好きだな)
酒童は香ってきた醤油の匂いに、心底から思う。
『ねえねえ、お弁当作ったんだけど、半分食べてみて?』
高校3年生の頃だったか。
無邪気な笑みでやってきた陽頼が、昼食の半分をくれたことがあった。
最初に彼女がくれた料理、玉子焼きには、葱がぎっしりと入っていたのを覚えている。