羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
九の半:鬼人
1
人狼を前に散る、仲間たち。
朦朧とした意識の中で、ただひとつはっきりと映ったのは、人狼の口内を彩る真紅だった。
(みんな……)
体中を激痛が走っているが、酒童は足掻いた。
「そっちに行ったぞ!」
呪法班員の声がする。
「くそっ」
隣にいた榊が抜刀した。
人狼が、こちらに向かって凄まじい勢いで突進してくる。
逃がすまいと、それを朱尾が追う。
(やめろ……)
酒童は歯を食いしばり、手を失った右腕を震わせ、伸ばした。
(やめてくれ……)
懇願する。
勇猛果敢に立ち向かっていった榊の顔が頭に浮かぶ。
堂々と人狼に立ちふさがろうとした彼の貌は、なにかしら負の感情で青ざめていた。
―――みな、心底では、人狼が怖くてたまらないのだ。
しかし、戦わなくては、どのみち喰われてしまうのが落ちだ。
だから、戦うのだろう。
自分が足を引っ張ってしまったせいで、ここにいる皆が、生きるか死ぬかの瀬戸際という瀬戸際に立たされているのだ。
酒童の脳裏をよぎったのは、周囲にこだます阿鼻叫喚と、ちらばった人体の一部と、血塗れの仲間たちの姿だった。