羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
1
「……ねみぃ」
ふああ、と小さな欠伸をかく子供を横目に、酒童(すどう)は、愛刀を半分だけ鞘から抜いた。
「眠いのはみんな同じだろうさ。
けどな、茨(いばら)。
戦闘中には寝るなよ」
「寝やしませんよ、いくらなんでも。
気を抜きゃあ、瞬殺ですからね」
子供……茨は酒童にたしなめられて、おろしていた腰をようやく上げた。
酒童と茨。
2人の腰には、物騒でかつ立派な日本刀が下げられている。
現在、時刻は午後11時。
月も高く上がって、普通であればもうとっくに就寝している時間である。
しかし、そんな時間にしか活動できないのが、2人の仕事のデメリットなのだ。
「しっかし、今日はやけに静かですね、奴ら。
いつもなら9時には出てきてるはずなのに」
「奴らの行動にはムラがあるからな。
この近くにはいないってだけで、何処かの地区では、たくさんいるんだろ」
「まあ……」
茨はうなづくと、すっと町を見下ろした。
いま2人がいるのは、10メートル前後の巨木の枝である。
ここは敵襲を避けやすく、状況をうかがうには最適の場所なのだ。
「昔はアライグマとかブラックバスとかが大発生して問題になってたみたいですけど、そんなもん、今となっちゃ、屁でもないっすね」
茨が呟いた。
昔、というが、本当に昔の話で、もう600年も前の時代、「平成」に遡る。