羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
1
う、と。
酒童は呻いた。
畳の敷き詰められた床は、固く冷たい。
両足両手を荒縄で縛られ、猿轡をかけられた酒童は、そんな懲罰房のような場所に頃がされていたのだった。
目を覚ました酒童は、目線だけで辺りを見渡した。
(ここは)
酒童はふと、失ったはずの手と足に感覚があることに気づく。
(どうなってんだ)
酒童は混乱した。
つい先ほどまで、自分はアスファルトの上で、手足をもぎ取られて倒れていた。
そして、妙な声に苛まれていた。
殺せ。
そう言われたときからの記憶が、消えゆく霞のように薄い。
いま己が置かれている状況が、全くと言っていいほどに飲み込めない。
―――朱尾は?榊は?桃山は?……みんなは?
酒童は人狼を思い浮かべる。
皆は。
いったいどうなったのだろうか。
固唾を喉に流す酒童だった。
しかもいま、酒童の前には頑丈そうな鉄の檻が張ってある。
ここでようやく、自分は牢屋にぶち込まれたのだということだけを理解した。
しかし、なぜ?
そう首を捻る、拘束された酒童の前に、彼の見知った顔が姿を表した。
あっ、と、酒童は口が使えない代わりに、心のうちで声をあげる。
(地区長に、鬼門班長)
羅刹の装束を身に纏った地区長と鬼門が、檻を挟んだ廊下に佇んでいた。
鬼門はいつになく、冷徹な表情である。
「気分はどうだね、酒童くん」
「んん(はい)……」
地区長がおもむろに問いかける。
酒童は言葉を伝えることができなかったので、とにかくうなづいた。
「そうか、よかった」
それだけ言い捨てると、地区長はひとつの丸い鏡を取り出し、それを酒童の鼻先に突き出した。
一瞬だけ、鬼門が表情を曇らせたが、それは酒童の視界には入らなかった。
「ふっ……⁉」
はっ……⁉
酒童はそう言ったつもりだった。
異様なものが、その鏡に写り込んでいた。