羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



 本来ならば、正面の鏡には自分の顔が写っていなくてはならない。

だが、この鏡の中にいたのは酒童ではなかった。


 爛々と光る瞳の色は、淡い翠(みどり)だった。

 肌は黒かったが、黒人の肌ともまた違う。

 日本の墨汁を、身体に塗りたくったような、妙に人間らしさのない肌の色だ。

 だが、その顔かたちは間違いなく、酒童のものだった。


 異質な身体を持った、酒童によくにた“もの”だ。


 酒童は驚愕で後ずさりしそうになる。

だが当然ながら、拘束されているためにそれさえままならない。


「これがなにか、お分かりですか?」


 鬼門が問うた。




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