羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
(お、れ、なのか……?)
酒童には信じがたかった。
例え自分に似ているとはいえ、肌の色といい目の色といい、とても自分とは思えない。
酒童はれっきとした黄色人種だし、目の色だって東洋人らしい黒色だ。
しかし、鬼門はそんな酒童に向けて容赦無く言い放った。
「これは貴方です」
(うそだ)
酒童は必死に首を左右に振った。
自分なはずがない。
こんな化け物、いくら似ているとはいえ……。
酒童はとても、鏡に映る“自分”を認めたくはなかった。
さっと血の気が引いてしまった酒童の前から鏡を下げ、地区長は紅いボストンバッグから、ずるりと何かを取り出すや、檻の前に翳した。
「これは、おとといの晩に君が“駆除”した、西洋妖怪の首だ」
地区長が鷲掴みにして翳したそれは、あの人狼の無残な生首であった。
まだ己の死を自覚できていないような―――いまにも、近くにいる人間に噛みつかんばかりの獰猛な貌をしていた。
自分の死にさえ気付いていないような人狼の生首から、尋常ならぬ速さで首を狩り取られたのだと悟れる。