羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



(やった……?俺が……?)


 馬鹿な、と酒童は己の頬を引っ張りたくなる。

 あの時からずいぶん時間が経過したようであるが、あの時、酒童は手足をもぎ取られて身動きが取れないでいた。

 それなのに地区長は、あの人狼を酒童が殺したのだと言っている。

 明らかな矛盾だ。

 その時の酒童に、あの怪物を仕留める力など、砂粒ほどだってなかったのだから。


「……人の貌に戻りましたね」


 鬼門は言うと、檻の合鍵を穴に差し込み、出入り口の戸を開いた。

 そこから鬼門は自ら檻の中に入り、酒童の口を塞いでいる布を引き千切った。

びりり、と布が裂け、酒童の口にまともな空気が供給される。

そして鬼門は、ナイフの如く鋭利な爪で、酒童を拘束する荒縄を切って行った。

 酒童の身体に自由が戻ってくると、鬼門はその手を強く引いた。


「きなさい。
貴方には、我々の話を聞き、そして命令を守る義務がある」


 こうして酒童は、地下牢……地図に表記されていない、拠点の地下室から出たのだった。



< 204 / 405 >

この作品をシェア

pagetop