羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
話を聞き終えると、酒童は、ずっと気になってならなかった質問を鬼門にぶつけてみた。
「じゃあ……俺のなくなったはずの手足が生えてたのも、俺たちの身体能力も、全部……」
「鬼の血が働いているおかげ、ということです」
「そう、ですか……」
訓練所に入ると同時に、注射器で腕に流し込まれる謎の薬。
今まで自分たちが“薬”と思ってきたものは、鬼の血液からできたものだった。
妖の存在はもはや架空のものではないのだし、その血の効果で西洋妖怪と対等に戦えているのだと思えば、納得できないことはない。
ただ、酒童にはなんだか、どこか飲み込めない部分があった。
あくまで羅刹は、血液の適合による効果で鬼の力を得たのだ。
しかし……人の心にまで、鬼の血というのは影響するのだろうか。
酒童はいつだって、人には優しく接しているつもりだった。
しかし時々、ふっと湧いて出たように、妙な感情が顔を出すのだ。
西洋妖怪の討伐が少なかったり、休日になったりすると、酒童はとても嬉しいのだが、心なしかガッカリしてしまう時がある。
自分でも、信じがたいのだが。
酒童は自分が自分ではない気がしていた。
もしかすると、それは鬼の血による副作用ではないのだろうか。
酒童がそう問いかけようとした。
その時、
ごもり、と、
酒童の右手が黒く盛り上がり、うずいた。
「っ……⁉」
なんだ?
酒童は咄嗟に手を押さえる。
するとその盛り上がりは消えて、もとの腕に戻る。