羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
そして、
「今日は木曜日、だよね」
ふふん、と。
陽頼が恍惚として呟いた。
「日曜日、予定ない?」
「なにもないけど」
本当に、なにもない。
西洋妖怪は「光」や「明かり」に関連する物や事柄を酷く忌み嫌うのか、
火曜日と日曜日には、全く姿を表さない。
西洋妖怪が出現しないのだから、もちろんのこと、羅刹は非番となる。
だから、長年の研究の結果、西洋妖怪は火曜と日曜は絶対に出没しないと証明され、
火曜日と日曜日は羅刹にとっての休日となった。
だから日曜日は、酒童は非番なのだ。
「なら、遊びに行こうよ、どっか近くの街に」
陽頼はそう提案してきた。
……これは言わば、デートに誘っているようなものだ。
遊びに行くといったって、酒童は基本的に物には無頓着であるし、陽頼と一緒に出歩ける以外に大したメリットはない。
それにしても、遊びに行く、というならいいが、
それを「デート」と言い換えてしまうと、なんだか、歯がゆい。
「陽頼が行きたいなら、俺はそこについてくけど」
「じゃあ決定ね!」
陽頼が語調を弾ませる。
これが、とっくに20歳という年頃を過ぎた24歳の女の面だろうか。
体調にかんしてはしっかりとしているが、内面はどうも幼い。
楽しげに肩をそびやかして、電子レンジを見つめる陽頼を前に、
酒童は、頬の肉が微熱を孕むのを感じる。
(……くっそ)
誘ってんのかよ、いろんな意味で。
酒童は心のうちで悪態をつく。
それほど恋愛には慣れていないのに、陽頼はそんな酒童にさえ、
「欲しい」
と、思わせた。
「……わかった。
じゃあ、楽しみに待つわ」
酒童は、声にならない小声で言った。
楽しみに待つ。
1日じゅう、恋人と共にいられるその日を。
だから、それまでは、死んでも死ぬわけにはいかない。
酒童が何度目かの決意を新たにした時、電子レンジの音が鳴り響いた。