羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
そうした生活を小学5年生まで続け、近傍の小学校に“転校”という形で入学した。
学習面では、その酒童が育った建物の者が、小学5年生までの教育を施してくれていたから、別にこれといって困ることはなかった。
ただひとつ、入学から誰とも馴染めず卒業することになった、ということを除いては。
酒童は極端に、コミュニケーション能力に乏しい少年だった。
いや、それだけではない。
酒童は幼き頃から、自分が周りよりも力が強いことを知っていた。
だからこそ、相手を傷つけぬようにと心がけて、人との接触を避けた。
酒童は持っていた模型を何度も破壊したことがある。
白衣の医者らしき男たちにも、保育士にも、プラスチック製の車の模型を握りつぶすことはできなかった。
それが、酒童には出来た。
古くなった車の模型を捨てようと、男の保育士がそれを手にとったとき。
酒童が慌ててオモチャを奪い返そうとし、ばきり、と勢い余って、その小さな手の中でオモチャを壊してしまったのだ。
あ、俺は他よりも力が強いんだ。
酒童はそれから、己の力の加減に気をつけるようになった。
おそらく、長らく人との接触を断絶する生活をしてきたからだろう。
酒童は物静かな子供になっていった。
そこから、羅刹を養成する訓練所へと入校したのだった。
鬼門の話を聞いている間、酒童の脳裏には、今までの記憶が鮮明に浮かんでいた。