羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
十の半:半純血の鬼公子《鬼門の語り》
酒童嶺子。
あなたは“鬼のDNA”を持って生まれた。
この日本列島でただ1人の、“鬼が人に孕ませた子供”なのです。
……何を言ってるのかわからない、と言いたげですね。
当然です。
あなたは父の顔も母の顔も知らない。
あなたが、自分の母を最後に見たのは、まだ1歳にも満たない時……。
鮮明に記憶には残らないでしょう。
24年前の冬。
その地域を廻る羅刹たちの日課は、いたって普段通り、西洋妖怪を見つけて、狩って、帰るのみでした。
しかし、違った。
1人の隊員が、西洋妖怪によって破壊された民家を見つけたのです。
結界の不備によるものでした。
万全な状態ではなく……結界の一部が破損していたのでしょう。
その民家は西洋妖怪の物理攻撃を防げなかった。
リザードマンとよばれる西洋妖怪、約6体の仕業でした。
母親は子を守ろうと必死でした。
自らの両腕を千切られても、奴めの前に立ち塞がっていた。
そこへ、隊員の1人が駆けつけたのですが……。
そう、助けることができなかった。
“嶺子だけでも助けて”と。
そんな母親の懇願に、その隊員は従いました。
羅刹ならば、母親も子も一緒に救い出し、西洋妖怪を討伐せねばならないのに、です。
その隊員は貴方の母親の言葉に甘えたのです。
己の西洋妖怪に対する恐怖に屈して、戦うことを放棄した。
子供を……あなたを腕に抱えて、彼は尻尾を巻いて逃げ出したのです。
背後から、空をつんざくような悲鳴が聞こえていたにもかかわらず、ね。
そのまま、隊員は担当の班長の元へと向かいました。
あなたはその後、県内屈指の研究棟へと移された。