羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
西洋妖怪と違い、日本の妖は目撃例の少ない生物です。
かれらは用もなしに現れたりはしない。
なにか重要な話をするときしか現れないのですよ。
隠形(おんぎょう)、とかいうものです。
自らの意思で出没できる。
それだけに、彼らに関する情報は非常に少ない。
妖は生態がほとんど謎に包まれた生物なのです。
そんな妖の血を継いでいるあなたは、生物研究者にとっては、これ以上にない研究材料であり、注目の的でした。
あなたに平凡な小学生とほぼ同じ生活をさせる一方で、あなたはずっと、大人に観察されていたのです。
覚えていないでしょうが、研究等に映された当初、彼らはあなたの腕から血液を採取し、羅刹の元となる血液の提供者……鬼の血液と、照らし合わせた。
そうしたところ、遺伝子の数が鬼の遺伝子数にほとんど近かった。
それが、貴方が鬼である証拠です。
その手は、どれくらいの破壊力を持つのか。
運動精度はどれくらい良いのか。
鬼の特性は全て持ち合わせているのか。
あなたの生活から得られた情報は、研究者たちにとっては大きな前進となりました。
今まで未知に等しかった妖の一端を、この目で見ることができたのだから。
……ん?
そんなことはどうでもいいけれど、父はどうしているのか?
そんなこと、他人である私が知るわけがないでしょう。
あなたの家からは、食い殺された母親の残骸しか見つからなかった。
辺りに散らばっていた瓦礫に付着した血液を採取し、DNA鑑定にかけた結果、その母親とあなたの血は繋がっていました。
しかし、肝心の父親の姿は、どこにもありませんでした。
少なくとも、西洋妖怪に手も足も出なかった母親は、鬼の血を持っていない普通の人間でしょう。
だとすれば、父親が鬼であるとしか言いようがありません。
《レイジ》という名前以外は、あなたの正式な苗字さえ、明らかになっていないのだから。
……じゃあ、“酒童”の姓は誰がつけたのか?
さあ。
まあおそらくは、研究者たちが付けた苗字なのでしょうね。
かの最恐の鬼、“酒呑童子”の名前をもじったとか。