羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



 酒童は声を震わせたまま、鬼門に懇願した。


「もし方法がないのならっ……俺を殺してください」

「なにをバカなことを言い出すのです。
正気ですか」

「正気だ!」


 つい声を荒らげてしまい、慌てて酒童は引っ込む。


「いや……正気です」


 訂正すると、酒童は己の胸元に手を置く。


「けど、やっぱり心配なんです。
アパート住まいだし、俺の近くには人間の方々も多いですし。
なにより……」

「一緒に住んでいる方、ですか?」

「……はい」


 酒童はうなづいた。

 このまま再発しないという保証がない。

……想像などしたくもないことばかりが、脳裏を駆け巡る。

 酒童にとって頭に浮かぶそれは、この上なく最悪な事態だ。


「だから、自分が死んだほうが安全だと?」

「はい」


 迷いなく鬼門に言う。


「あいつは、俺よりもずっと重いんです」


 酒童は椅子に座り直し、膝の上で拳を握った。


 少なくとも体重的な意味での“重い”ではないのだと、鬼門は理解したらしい。

腕を組むや椅子にふんぞり返り、大きなため息をつく。


< 227 / 405 >

この作品をシェア

pagetop