羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
酒童は声を震わせたまま、鬼門に懇願した。
「もし方法がないのならっ……俺を殺してください」
「なにをバカなことを言い出すのです。
正気ですか」
「正気だ!」
つい声を荒らげてしまい、慌てて酒童は引っ込む。
「いや……正気です」
訂正すると、酒童は己の胸元に手を置く。
「けど、やっぱり心配なんです。
アパート住まいだし、俺の近くには人間の方々も多いですし。
なにより……」
「一緒に住んでいる方、ですか?」
「……はい」
酒童はうなづいた。
このまま再発しないという保証がない。
……想像などしたくもないことばかりが、脳裏を駆け巡る。
酒童にとって頭に浮かぶそれは、この上なく最悪な事態だ。
「だから、自分が死んだほうが安全だと?」
「はい」
迷いなく鬼門に言う。
「あいつは、俺よりもずっと重いんです」
酒童は椅子に座り直し、膝の上で拳を握った。
少なくとも体重的な意味での“重い”ではないのだと、鬼門は理解したらしい。
腕を組むや椅子にふんぞり返り、大きなため息をつく。