羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》


2


 鬼門からは今日から明日までの謹慎処分を受けた。

人間としての自分を忘れ、本能のままに暴れたことへの罪、なのだそうだ。


『あなたがした事は“殺し”ではなく“駆除”ですが……。
自らも理性を捨て、物の怪に成り果てようとした罪は、理性を重視する人間の常識では重いものです』


 鬼門はそれだけ言うと、酒童をさっさと拠点から追い払ってしまった。

 今日は火曜。羅刹の定休日だ。

 今日と明日が謹慎という事になってしまうと、明日の仕事には出られない。


(大丈夫かな……。
喧嘩したりしねえかな、朱尾と榊……)


 そんな心配事か浮かぶ。

思い返せば、あの2人は出会い頭からすこぶる仲が悪かった。

 朱尾は喧嘩慣れしていて、言うなればパワーファイターである。

 榊は榊で気性が荒めで、しかも負けず嫌いだ。

 また何かのいざこざで大げんかになりでもしたら、桃山ひとりではとても止められないだろう。

酒童は、朱尾と榊が喧嘩をし出し、桃山が大汗をかいて慌てる様を、不憫に思いつつ目に浮かべる。



 大丈夫かなあ。

 一応、天野田の班と合同でやるらしいし、茨もいるからいいかあ。


 そんな、日常茶飯事のようなことを、何かから逃避するように考える。


 ってか、誕生日に大怪我するなんて、洒落にならねえな、俺。

あ、でも誕生日っつっても、研究者の皆々様が適当に決めた日なのか。


 適当に、とにかく心に出たことを、緩い語調で独り言にして溢す。

 これといって緊張するようなことではない。

それなのに、酒童の足どりは自宅アパートに接近するにつれて遅くなり、それにともなって、内臓を締め付けられるような気分になっていった。








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