羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》





「くっ」


 細い体。

 ごぼうのような足腰。

 弱そうな腕。

 しいて強そうと言うならば、この物騒かつ鋭敏な顔くらいである。

 どこからどうみたって、童話に出るような筋肉隆々の妖怪には見えない。



 けれど。



 このひ弱そうな体が漆黒に染まり、この瞳が翡翠の色と化した時。


酒童は鬼となり、本能のままに人を殺すのだ。


(どうして……)


 酒童はシャワーを頭から浴びた。

 両腕を交差させてその身を抱き、二の腕を強く握る。

以前にみた時よりも長く伸びた爪がその頑強な肌を破ると、つう、と赤黒いものがシャワーに流された。


(どうして俺が、鬼に生まれなきゃならなかったんだ)


 酒童は昔から謙虚な面が多い性格で自己嫌悪にも陥りやすかったが、ここまで自己否定をしたことはない。

 いまこの時、酒童は自分の身体がいちばん憎い。





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