羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
広告の紙を下に敷き、その上に椅子を置く陽頼は、ここぞ腕の見せ所とばかりにたいそう張り切っていた。
「嶺子くん、お風呂からタオル持ってきてー」
高い戸棚を漁りながら、陽頼が浴室を指差す。
酒童は椅子に乗って爪先立ちする陽頼に淡い想いを抱きつつ、浴室へと足を運んだ。
「おっとっと」
よろけたのか、陽頼の呑気な声がする。
(危なっかしい体勢だったもんな……)
浴室と戸棚との距離は、10歩を超えるか超えないかというくらいしかない。
その10歩が、酒童にはたった半歩に感じられた。
浴室のカゴからタオルを1枚取り出すと、それはじっくり触ると、とても柔らなかなものだった。
ほんの数日までは、そろそろゴワゴワになってきたかもな、と思いはじめていたのに、今ではこの手触りさえ愛おしい。
今日じゅうに、酒童は自分が鬼の末裔である事を陽頼に打ち明けるつもりだった。
そして最悪の事態にならないために、どうすべきか。
その最善策も、話すつもりでいる。
陽頼がそれを受け入れたら、酒童は近いうちに、ここを離れる事になるだろう。