羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



 静々と名乗った酒童に、女子生徒は「あ!」と掌に拳を乗せた。


「見たことあるよ。
E組の天野田くんと仲良しなんだよね」

「天野田のこと、知ってんの?」

「うん。
友達がね、いつもカッコいいって言ってるから。
天野田くんと夫婦みたいにいるの、あなたでしょ?」


 夫婦、と言われてしまうとなんだか変な感じがするが、いつも一緒にいるのは確かだ。


『君がボッチなのを見てると、ほんとに憐れで仕方がないと思って。
可哀想だから僕が一緒にいてあげるよ』


 いつもながら恩義せがましく聞こえる口調で、天野田は酒童を一緒に連れてくれる。

 周りには女子生徒や男子生徒の取り巻きもいるのに、だ。


(俺は天野田のオマケなのか)


 酒童はこれといって、良い気も悪い気もしない。

 天野田は酒童と違って友好的で、容姿端麗かつ頭脳明晰なこともあり、なにより“モテる”ため、学校内では顔の広い人物だった。


「まあ、そう」


 常に行動を共にしていることは否定できない。

 酒童は顎をしゃくる。


「やっぱり!
刈り上げヘアなの、嶺子くんしかいないもんね!」


 まあ、そうだな。

 二度目にうなづきかけ、酒童はふと肩をはね上げた。

 なにげなく、名前で呼ばれたからだ。



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