羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
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いつもに比べると、彼はずいぶん帰りが遅かった。
彼は仕事柄つねに帰りが遅くなるのだと言っていたし、陽頼もそれを承知していた。
酒童ほぼ毎日、傷を置いつつも平然とした顔で帰って来てくれた。
が、先日例外が起きた。
日曜日だというのに、昼間から西洋妖怪が現れたのだ。
それで酒童は、その夜まで仕事に駆り出された。
普段であれば、翌日には帰って来ていたのに、その日はどれだけ待っても酒童は帰宅しなかった。
そしてようやく、翌日の夕方に帰ってきたのだった。
(……どうしたんだろ、嶺子くん)
なぜか綺麗に切られている服。
そして彼のやけに沈んだ様子。
なにがあったの?と問うことさえできず、陽頼はただ微笑んだ。
羅刹はほぼ一般の職業だし、自分たち日本人にはとても身近な存在だ。
けれど、その仕事事情については、羅刹にしかわからないことがある。
酒童という人を知って、初めて、身近でありながら最も未知の次元にある者がいることも知った。