羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
陽頼は、ずっと懐のポケットにしまっていた、小さな紙袋を手にする。
本当は、あのショッピングモールから帰ってきた後に渡すつもりだった。
それなのに、その予定日から2日が経っても未だ渡せていない。
とはいえ、いまの彼には、なんだか渡せる気がしなかった。
(また、なにか抱え込んでるのかな)
そんな考えが過る。
出会った当初、酒童は口数が他より少なく、初対面の人には特に表現の下手な青年だった。
人とあまり話したことがないのか、最初は黙り込んだり目が泳いだりすることも多々あり、仲良く喋る相手といえば、せいぜい天野田や、陽頼の知らない同僚くらいしかいなかった。
だから、自分の本音はほとんど他人に漏らしたりはしないし、天野田以外には、どんなに重い悩み事があっても打ち明けなかった。
いまは、そんなことはない。
以前よりもずっと正直になったし、笑顔も増えた。
嫌なことも、愚痴としてこぼすようになった。
だから、酒童のあの状態が、陽頼には彼の高校時代の再来のように思えた。