羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「陽頼?」
酒童に名を呼ばれて、陽頼は椅子に登ったまま、タオルを握って戻ってきた酒童を見下ろした。
見下ろした、といっても、酒童は長身なので、今の陽頼とは頭ひとつ分くらいしか違わないのだが。
陽頼は改めて酒童をまじまじと見つめた。
高校時代よりも大人びて、きりりとした切れ長の目尻がさらに特徴的になっていた。
黒いシャツを着ると、身体のラインがくっきりと出ている。
全体的に痩身なためか、近所の体育会系の高校生よりも肩幅が狭い。
けれど、やはり痩せ型なりに引き締まっているのが伺える。
これといって女に魅力を与えるような体つきではないが、きっとこの下には満身創痍の皮膚があるのだろう。
深いものから、浅いものまで。
そしてそれがどれだけ痛もうと、決して、誰にも心配をかけまいとして黙っているのだ。
そう考えると、また例えようのない切なさがあった。
「―――ん。
いま用意してるから、タオル巻いて待ってて?」
「ああ……」
明るく繕っても、酒童からは重ぐるしい返事しか返ってこなかった。