羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
2
陽頼は張り切っていたが、いまはなんだか、いつもより口数が少ない。
いつもであれば、うきうきわくわく、意気揚々として事に臨むのに、陽頼はなにも言わずにハサミやら櫛やらを弄くっている。
「こうやって見ると、なんか切るの勿体無いよね」
切ると言い出したのは陽頼なのに、彼女は惜しげに酒童の髪を小さく三つ編みにした。
「なにが?」
「髪の毛。
赤毛っぽい茶髪だし、うらやましいの。
私は真っ黒だから」
「日本人なら黒じゃねえかな、普通」
「それ、昔の話だよー」
他愛もない話をしているこの瞬間も、酒童にはもう尊いものに思えた。
(いつ、言おう……)
酒童は迷っていた。
いま唐突に、いうべき事は言った方が良い。
しかし、いつまでたっても酒童は踏み出せないでいる。
そうしなくてはならないのに、できていないのだ。
「あの」
このままでは埒が明かない。
酒童はようやくハサミを握り始めた陽頼に対し、口を切った。