羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



「どういうこと?」


 もちろん流石の陽頼も、突然の宣告には陽気さを失い、円な眼に悲哀の色を浮かべていた。


「落ち着いて、聞いてくれよ……」


 とても顔をあげることなどできず、酒童はうつむいた状態で、己の正体とその出生を明らかにした。

 鬼門に話されたことを全て、だ。


 自分が、単なる妖という生物の中の“鬼”という種のものだというだけなら、まだいい。



 ……それだけなら、陽頼と別れるなどという望んでもいない選択は取らなかったろう。



 鬼がもつ僅かな理性の底に、西洋妖怪とほぼ同じ本能が眠っているのだと知った以上、今までの生活は送れない。

 油断すればいつ何時、気がつかぬ間に陽頼を殺しているかわからない。

 酒童にとっての最善の選択は、陽頼と縁を切り、少なくとも彼女だけでもこの危険から遠ざけるしかない。

 自分からもっと山奥の田舎に移ってもよかったのだが、それは鬼門に止められた。


 精鋭がいなくなったら、誰がその穴を埋めるのだ、と。


 だから、嫌でもここの近くに住むしかない。


「……そういうことなんだ」


 説明を終えて、酒童は固く唇を引き結んだ。


「じゃあ、嶺子くんは妖怪の仲間、ってことなの?」


 陽頼の声は小刻みに震えていた。

 きゅう、と酒童は内臓を締め付けられるような錯覚に陥る。

 現代日本において、妖は生物のうちであり、生態系の中にも含まれているものとして認められている。

 そして、人間に並び知能がある生物であるとも。

 だから、珍しい話ではないのだ。

 妖という存在は。


「……ん」


 酒童は顎をしゃくった。





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