羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



「それで嶺子くんが鬼の子供だって分かったから、別れることにしたの……?」


 矢継ぎ早に陽頼が問いかけてくる。


「……ん」

「人を食べるかもしれないから?
それを抑える道具があるのに、聞くかどうかわからないから、別れた方がいいってこと……?」

「―――ああ」


 酒童が答えると、陽頼はなにも言ってこなくなった。

 静寂に空気が沈む。

 ぱりり、と障子紙を張ったような緊張感に包まれる。


 そこでうつむき気味だった酒童は、視界になにか粒のようなものが落ち行くのが映った。


「あ」


 思わず、顔をあげる。

 あげて、胸を切り裂かれたように、酒童は仰け反った。

 陽頼の頬を、その眼から溢れ出た水が、止むことを知らぬとばかりに伝っては落ちていくからである。


「っ……」


 酒童は目をそらしたくなった。

けれど、そらすことができずにいた。

 なにか強い糸に囚われたかのように、酒童は陽頼の顔を直視したまま固まっている。


「そんなの、やだ」


 今にも鼻水を垂らしそうになりつつ、陽頼は鼻を赤くして、涙声を振り絞った。


「浮気でも覚めたわけでもないのに、別れるなんて嫌」






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