羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



 これを「いい身体」と仲間はからかってくるが、本音をいえば、酒童はあまりこの身体を人目に晒したくはなかった。


この傷だらけの、壊れ物のような肉体は、戦う事だけが自分の存在意義である事を言わしめているようだったからだ。



 ……早めに行くべき、か。



 酒童は決める。

 時間のことを考えれば、ここを5時40分に出たって、拠点には時間内につく。


 しかし、万が一にでも、例えば通勤ラッシュならぬ退勤ラッシュで足止めを食らってしまい、会議に5分遅れでもしたら。


『―――貴方のようなお馬鹿には、御仕置きが必要ですねえ……』


 麗しい美貌を、般若の如くに歪めて笑う班長の貌が、頭に浮かんで仕方ない。

 寒ぼろがでてきたので、酒童は両腕をさする。


(恐ろしいったら、ありゃしねえ)


 酒童は震撼しながら、持ってきた戦闘服を身に纏う。

 戦闘服は、どちらかといえば和服に近かった。
 
一見はカッターシャツのようでもあるが、これは着物と同じく、衣を身体に巻きつけるようにして着るものだ。

しかもそれを丁寧に着れば、れっきとした和服の下にカッターシャツをきている風に見える。

しかし、着物のように広い袖ではなく、そこは軽量を重視した、シャツと同じ、口の狭い袖だ。

下に穿くのは、みな統一して、足首をくくるための紐が通された、藍の袴である。



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