羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
3
槿花山の頂上には、これはまた豪華な金製の装飾がなされた、古城の再建造物が佇んでいる。
その昔、“天下統一を目指した男”が建てたのだという、東海三県のうちひとつの、県の名がついた城だ。
その城は、昼の間は見物客もきて、そこそこ賑わっている。
ロープウェイの設備や、菊の展示に和みの茶屋。
リスと触れ合える場もあるということで、小さなお子様連れの者も多く訪れる。
しかしそんな槿花山だが、不思議なことに槿花山一帯の地区は、他の地区よりも西洋妖怪の数が格段に少ない。
……いや、少ない、というのは語弊であった。
いると言えばいるのだが、それらは現れた途端に殺されるのだ。
この山は、今や夜となれば“妖の城”へと姿を変える。
ぐしゃりと音を立て、首から上を金棒に叩き潰された西洋妖怪が血の海を作る。
首が潰れた死体は、それひとつのみではない。
そこらじゅうに、西洋妖怪の死骸が転がっているのだ。
「……まずい。まずいわ」
西洋妖怪の肉塊をひと口はみ、闇にとろけた巨体は呻いた。
「“ヒト”のやつめ、こんなまずいものを食っておるのか」
そう悪態をつく巨体は、どうやら体全体が黒いらしい。
一見すればなにも無い闇の中から、その巨体が地面を踏みしめる重量感のある音がした。
しかしその音が立つ場所には、翡翠の珠のような目玉がふたつ、ぎょろぎょろと動いている。
「……相も変わらず暴れ者よの、九鬼(クキ)」
―――名を呼ばれ、西洋妖怪を潰した巨体はその声のした方向に身体を傾ける。
この山は木に覆われており、月光など僅かばかりしか入ってこない暗黒だ。
しかしその声がする場所には、丈が人ほどの、ぼんやりとした白光が浮かび上がっていた。
「ほう」
九鬼と呼ばれた巨体のそれは、にちりっ、と黄色い牙を剥く。
「久しいなあ、空亡」
白光の中から現れた子ども……もとい妖の頭領・空亡は、気味の悪い笑みを浮かべる九鬼を睨みつけた。
「なにが“久しいなあ”じゃ。
いま、おのれのせいで剣呑な事態になっておるのだぞ」
空亡の怒りを含んだ声と共に、その背後から無数の灯火が発生した。
油もろうそくもないのに、その青い炎はひとりでに浮いている。
鬼火である。
鬼火が現れたと共に、それを取り巻くように霧がかかる。
ひゅうどろ、ひゅうどろ、と。
鬼火と濃霧が一帯を包むと、その霧の中からは、ぞろぞろと複数の影が湧いて出た。