羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
1
酒童がいない。
それは思いのほか、羅刹隊にとっては大きな打撃となった。
普通の羅刹は、半分の力でひとりで西洋妖怪を2体ほど狩る。
そこを、酒童は半分の力で5体は狩れるのだ。
連携プレーでなければ、酒童は1人でだって仕事ができる。
おそらく、この地区では最強の隊員に違いない。
特に彼が束ねていた、住吉(すみよし)区の周辺を担当する酒童班はいつになく遅くに拠点へと帰還した。
残された酒童班は、朱尾、榊、桃山の3人である。
知的な桃山を除けば、朱尾も榊も力ある猛者だ。
統率者がいなくとも、なんとか西洋妖怪を凌ぐ事はできたろう。
……しかし、その日は例外だった。
人狼との戦いの折に、朱尾は利き腕に深い傷、榊は左腕を骨折と、ともに完治に2、3日はかかる負傷をしていた。
そのため、酒童が謹慎処分となったその夜だけは、天野田班と合同での駆除作業となったのだった。
天野田、茨を含む班員4名と酒童班の班員は2つの地区での駆除作業に移ったが、これは不幸の連続なのか、巨体の西洋妖怪が6体も集まっていた。
指示を務めた天野田の奇襲策でわずかながら朱尾と榊への負担は減ったが、それでも巨大な敵を相手にしているゆえか、いつもならかすり傷程度で帰ってくる茨でさえ苦戦する結果となった。