羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》




「ほんとだ、ひいてきた」


 茨は瞠目する。

 天野田は羅刹であるが、呪法班が習得する法術も心得ている。

 一部の呪法班員にも頼られているほどなのだから、腕も利くのだろう。


「ありがとうございます、天野田さん」


 一礼し、茨はそばに置いていた愛刀を腰帯にさす。


「いいよ、私もこの類の術なら得意なんだし」


 華やかに微笑み、天野田はポケットから絆創膏を取り出し、頬の切り傷に貼り付ける。


「……」


 始めは笑っていた茨は、どこか浮かない貌になり、天野田の笑みを見返した。


「気になる?酒童くんのこと」


 天野田は問うた。


「昨日の晩、私や君たちの前に現れた“黒い怪物”。
あれがまさか、あの酒童くんとは思えないんだろう?
けれど、その眼でみたものほど確実なものはないからね」

「……じゃあ酒童さんも、あの人狼と同じ西洋妖怪の類だったってことですか?」


 あたかも酒童が化け物であると言う、眼でみた真実を拒むかのように、茨は追求した。

 それに対して天野田は、


「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」


 と、曖昧模糊な返答をした。


「どういう、ことですか?」

「なにも、この世界における“化け物”は、西洋妖怪だけじゃない。

―――考えてごらん。
この国に置いて、西洋妖怪以外に生物として認められている化け物は?」


 天野田はほぼ答えに近いヒントを出す。

 ここまでヒントを出されて、答えられない日本人はいない。

 頭の悪い茨でさえ、問いかけられた刹那にその答えが浮かんだ。



「……日本妖怪(あやかし)?」



 茨は探るように言った。


 以前に記したように、日本では《妖怪》というものの存在が《生物》として認められている。

妖怪などというものは今やオカルトではなく、現実的に生物としてデータブックに載っている。


 だから、決して架空の話ではない。


 人狼のように、人に化けて生活する妖がいたって珍しくはないだろう。



 ……無論、妖と人との、まったく違う遺伝子がかけ合わさって生まれた生き物は、現時点では1体しか発見されていないが。






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