羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「そう。
たとえ彼が怪物の類だったとしても、それが西洋妖怪とは限らない。
……世界には、色々な化け物がいるからねえ」
机に頬杖をつき、天野田はしみじみと遠い眼になる。
「そりゃ、酒童さんが凶暴な西洋妖怪でも、この国に潜む妖でも、たぶん酒童さんに変わりはないとおもいますよ。
ただ」
茨はそこで、しばし視線を泳がせる。
なにか言いたそうだが、それをためらって口籠っている。
とったばかりの魚を口に吹くんだかのように、茨は頬をもごもごと動かした。
「あの、その、言いづらいんですけど」
「なんだい」
「酒童さんが人間でないとしても、俺はあの人に、人としての理性があることを心から信じてます。
もしあの人が飢えた一介の化け物なら、俺たちもとっくに殺されてますからね。
けど、ひとつ気になるんです。
なんであの夜、酒童さんは俺たちを襲わず、化け物の姿で人狼に襲いかかったんでしょうか?」