羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
アパートのすぐ隣には、こじんまりとした公園がある。
昨夜の公園ほど広くはないが、ここは桜が1本植えられており、春になると、これがまた綺麗だ。
樹齢も長く、樹自体も大きいので、広く伸びた枝じゅうに、薄紅の花が咲く。
その公園を通過して、酒童は400メートルばかり先の街を小走りで目指した。
酒童が住むアパートの周囲には、古びた民家や、小規模経営の店しかない。
しかし街の外側には昔ながらの商店街があって、仕事の行きには、よく安く売られている食べ物を買うのだった。
酒童は小路を抜けて、街へと続く大路へと入る。
ここはまだ、昭和の商店街風の懐かしさが漂うところだが、
この道の交差点を右に曲がると、ビルだとかファッションだとかイタリアンだとか、そんな今時の店が立ち並ぶ小規模都会がある。
羅刹の拠点は、そちらと逆方向の道沿いにあった。
都会風の街が平地に立ち並ぶのに反して、羅刹の拠点が立つ場所には、どちらかといえば古びた民家や農地が多く、すぐ東には、古城が佇む山がそびえているのだ。
酒童は服の安売りなどが行われる店を通り越し、大通りの交差点を左に曲がる。
この道にはあまり人がいなかったが、聴覚が研ぎ澄まされた酒童の耳には、街へと流れてゆく人々の声が聞こえていた。