羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
それから青木は、幾度に渡って呪法学の教官に事実を訴え続けた。
違うんです。
故意でやったんじゃない。
あの柔道場ではいじめがあったんです。
―――と。
教官の返答は、決してあやふやなものではなかった。
そこらの“いじめを隠蔽する底辺教師”らとは違い、羅刹としての修羅場をくぐってきている分、この訓練場の教官は強くできている。
「そんなことはわかっているよ。
彼らの中で、ひとりだけ被害を受けなかった女子訓練生にも話を伺ったからね」
眼鏡をかけた教官は、真摯な青木の瞳をまっすぐに見据え、そしてこう言い放つ。
「彼女の証言でも、あの男子訓練生たちが加害者で、朱尾くんは第三者であると思う」
「だ、だったらどうして……」
「朱尾くんは、自分は彼らよりも圧倒的に強いと自覚していたはずだ」
教官は木の枝のような、すっかり老いてしまった腕をさする。
そこには、優しげでありながら凍てつく氷のような視線が注がれていた。
かつては呪法班に所属し、駆除活動に貢献していただろう教官の沈着な眼差しは、いまでも健在であった。
「確かに、男性の女性に対する集団暴行は非常に許されざる行為だ。
何発か殴るくらいなら、おあいこで我々も目を瞑ることができた。
だがな、彼はやりすぎなんだ。
特に、あのグループのリーダーらしき訓練生には、数えきれないくらい殴られた痕があった。
そこまですると、もうただの“弱いものいじめ”なんだよ」