羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「私に冷たい理由も、それ……?」
青木の問いかけに、朱尾は他人づらで「そうなんじゃねえの?」と返した。
あまりに曖昧な返答である。
青木はじれったくなった。
「本当のことを話しても信じてもらえないだろうから、諦めて堕ちたの?」
人聞きは悪いが、そうとしか言いようがない。
「そういう、ことだ」
朱尾は認めるが、どうやら彼は嘘の下手な男だったらしい。
青木から目をそらし、その表情をわずかに曇らせる。
「……そう……」
青木はなぜか納得する。
その刹那、素早く懐から呪符を抜き取り、それを朱尾の鼻先に向けた。
「……本当のことを言って」
青木はいつになくドスを利かせて言った。
「おい青木、なんのつもりだ」
「呪法班の起源は、陰陽師および修験者。
呪法班は、妖に対抗するための法力を備えた人材も養ってる。
……妖のみにあらず。
人間に苦痛を与えることだって例外じゃない」
青木は指に挟んだ霊符を、さらに朱尾へと近づける。
脅迫である。
朱尾はなんの文字も書かれていない、貧相な霊符を白い眼で見やった。
「俺を脅してんのか?」
怯えるでも、侮っているでもなく、朱尾はいまいち読み取れない無表情で問いかけた。
「……うん」
すると青木は、相変わらずしぼんだような返事をする。
どう聞いても、同級生を脅す時の声ではない。
「この手の呪法だけなら、私、結構得意なの」
「札、なにも書いてねえぜ?」
「書いてなくてもできるよ。
……真言を完全暗記してれば、あとはそれを言葉にするだけ」
もちろん、青木は朱尾に術を浴びせたりはしない。
しかし、こちらの呪法が得意というのは本当の話だ。