羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
頭や風貌は相変わらずヒグマのようであるが、以前よりもずっと人間らしくなっていた。
「妖の血をもって立ち向かっても、西洋妖怪との力量はほぼ互角。
けれど、今までは先輩がいたおかげで、ここは順調に駆除作業が行えていた。
そんなエースが、さらに強くなって帰ってきたんだ。
なんにも、悲しむことじゃねえっすよ」
エース、と言われるほど、以前の自分は強くはないと思うのだが。
酒童はそう言いたくなる。
それに強くなった、とはいうが、それは血の中に眠る人外の遺伝子のものであり、人間のように理性を保ったまま鬼の力を発揮する、というのは難しいだろう。
鬼の力が出れば、自分が苦痛を味わうか、理性を失うかのどちらかの結果になる。
「確かに俺は強くなったかもしれねえよ。
けど、リスクだってあるんだ。
力に呑まれちまえば、人の理性は本能に支配されて、他の奴らを喰い殺しかねねえ」
「そん時は、ぶっ殺してでも止めてやりますよ」
朱尾が鉄砲を揺する。
「あんたが謹慎でいないときから、ここにいる隊員たちの意思は固まってんですよ。
殺すのが俺たちであろうと、先輩であろうと、少しでも力ある武器になるのなら、あんたは俺たちに必要な人だ」
必要。
この言葉ほど、酒童のような人間にとって魅力的な言葉はない。
甘い言葉をかけられると、ついぽっきりと折れてしまうのは、酒童の悪い性格だ。
しかし。
(必要……か……)
たとえ人間たちにとって自分は最強の生体兵器であり、その兵器として利用するために人間側にとどめられているのだとしても、酒童はそれでも良いような気がした。
今まで、この剽悍な面立ちゆえに人に避けられがちだった。
そのためか、酒童は人よりもずっと“求められる”ことに飢えていた。
だからだろう。
武器として利用されるだけでもいい。
化け物、と畏れられるよりは。
化け物だからこそと、頼って欲しい。
自分で周りを遠ざけることを言っておきながら、たったひとつの誘惑にも乗ってしまうとは、つくづく酒童は意思の弱い男である。
それが人間の本質なのだが。