羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》


 皮肉っぽく眉根を上に捻り、天野田は、


「ところで、茨は?」


 と、出勤してくると必ず口にする一言を発した。


「茨はいねぇよ。
あいつは呼ばれてないからな。
いつも通りの時間に来るんじゃねぇの」


 酒童がそう返すと、天野田は不機嫌さながらに小石を蹴り、腕を組む。


「なんだ、精鋭が集められた会議というから、茨も呼ばれてるだろうと思って、意気揚々として来たのに。

茨が来てないなら、帰っちゃおうかな」


 天野田はぼやく。


「ほんとに茨が好きだな。
そんなに仲間に欲しかったなら、1回、俺の班から派遣してやろうか?」


 酒童は、本気で言ったつもりだった。


 茨は、羅刹入隊のための訓練所をトップで卒業した、若手の精鋭だ。

どの班も、さぞ班員に欲しかったろう。

それくらいの人材だ。

だから、天野田が、ああも茨を欲しがる理由も、酒童は充分にうなづけた。


 しかし。

天野田は喜ぶどころか、さらに不満を湛えた瞳になったのだった。


「相も変わらず、君の鈍感さには本気で殺意が湧いてくるよ。

……ねえ、君を2枚におろしちゃってもいいかな?」

「はあ?なんで俺が責められんだよ」

「リア充の童貞くんには、分かりゃしない話だよ」


 意味がわからない。

リア充は、確かに自分でいうのもなんだが、本当のことかもしれない。

 しかし、童貞とは、これはまた酷い言い草である。


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