羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
ぼう、と。
ペルーダが長い首を伸ばし、甲羅の上に降り立った酒童へと焔を浴びせる。
しかし焔が焼き尽くしたのは、そこにいたはずの酒童の面影であった。
地に降りた酒童は迅速な動作で刃を走らせ、闇の中で焔色の一線を描く。
斬、と。
焔の光を弾いた玉鋼の一閃が走り抜け、ペルーダの首が落ちた。
他からも次々と斬首の音が立つ。
さすがの朱尾も銃弾で強固な甲羅を撃ち抜くことは不可能だったのか、珍しく刀を抜いていた。
長らく刀を使っていなかったというのに、朱尾の剣の腕は衰えていない。
(よかった)
鬼の血は駆除に異常をきたさなかったようだ。
酒童は安堵して肩を下ろす。
しかし、次の瞬間。
ぼこり、と右腕が盛り上がった。
「うっ⁉」
酒童は驚愕して、漆黒に染まり、筋肉が盛り上がり始めた右腕を押さえる。
鬼の血の覚醒というのは、どうやら覚醒のタイミングというものがないらしい。
しゃっくりと同じで、意識していてもしていなくても、気づけば出ている。
「く、っそ」
酒童は悪態をついてうずくまる。
「酒童さん?どうしたんですか?」
闇の中で体を縮める酒童の姿を異変に思ったのか、いちばん近くにいた茨が歩み寄った。
まずい。
酒童は歯を軋ませ、咄嗟に声をあげた。
「来るな‼」