羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



「残り香?なんでそんなものがーー」


 言いかけて、酒童は唇を引き結んだ。


「―――なぁ、まさかとは思うが」

「仕事前に遊んできたんだ、暇だったからね?」


 天野田は雅な笑顔で答える。

 遊んできた、といっても、決して「物」で遊んだというわけではない。

そんな日常的なものよりも、もっと、色っぽい「遊び」。

俗にいう「ヤッた」というやつである。


 酒童は額に指で触れた。


「そ、そうか」


 酒童は、こういう話は苦手だった。

キスや抱きしめる、といった程度のものなら何とも思わないが、

そこまでの、性欲を満たすだけの行為については、あまり、その情景を想像したくない。


「やだなぁ、酒童くん。
そんな別世界の生き物を見るような目にならないでくれよ。
女の子を抱くなんて、どこの男だってやることさ」

「確かに生物学上、子孫を残すための交尾は絶対に必要だけどさぁ。
一度限りの、その、女の子っていうのはどうなんだよ」

「愛がない交尾なんてしたくないって?
純情だねぇ、君は」


 わざわざ金を出して女性を抱くような男に言われたくない。


 さこそ、天野田は隊員の中でも美形の部類に入るのだから、誰かと付き合おうと思えば、そこそこ簡単にできるだろう。

それなのに、わざわざ娼婦を買う理由が、酒童には理解しがたい。


「……別にそこまで気障なことは、いわねぇけど」


 酒童はしぼんだ声を絞った。


「まあでも、今回の子は良かったよ。
Eカップなだけあって、いい身体だったしね。
私の見たてじゃ、彼女のスリーサイズは推定で……」

「職場でそんな卑猥な話すんなよ。
班長にみつかったら締められんぞ」

「ふん、だろうねぇ」


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