羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



「鬼って……なんですか?
それに会議って、上層部の人しか集まらないんでしょう?
なんで酒童さんを連れてくんですか?」


 茨の質問は長く、多い。

 鬼門は忌々しげに眉をひそめると、「うるさい子ですね」と毒を吐いた。


「子供が関わっていい話ではありませんよ」

「そんな……」


 圧力をかけんばかりの鬼門の物言いに、茨は唖然とする。

 そうしている間にも、鬼門はとっとと酒童の手を引いて歩きはじめた。



―――が。



 そこでぴたりと、鬼門が足を止めた。

 滑らかな白い指が、鬼門の背後からその華奢な肩を掴んでいるのである。

 ごつい茨の手ではない。


「羅刹と妖はとうとう、“鬼”の生殺与奪を分ける会議に突入した、というわけですかな?
鬼門班長」


 その手で鬼門を引き止めた天野田は、さも皮肉ったらしく唇の端を吊り上げた。


「天野田さん」


 茨はすがるような眼差しで天野田を見つめている。

 酒童さんを助けてください、とばかりに。


「大丈夫、安心してお帰り」


 天野田は茨に対して片目を瞑ってみせ、鬼門を見据える。

 鬼門はますます冷めた表情になって、天野田に差し向かう。


 美貌が、睨み合う。


「……天野田 久遠。
どこでその話を耳にしたのです?」


 鬼門が威圧的に問いかけた。


「今日はこちらの拠点に、地区長がいらっしゃったでしょう?
駆除活動に出る直前、お二人で打ち合わせらしきものをやっていたようですし」


 天野田は恬として答える。


「盗み聞いていた、ということですね」

「そうですが?」


 その言葉を聞くや、鬼門が指を鳴らしはじめた。

 天野田の態度に苛立っているのか、貌にみるみるうちに黒い陰が差している。


「重要機密を盗み聞きするとは、この不届き者め」

「重要機密なら、メールを使うべきではありませんか?
それに人の命を左右するような話を、なぜ本人にしない?
それではもう人権侵害じゃありません?」


 天野田の語調は、明らかに挑発している。

 当然のことといえば当然であるが、言い方というものがある。

 酒童は火花を散らす2人の間に仲裁にはいることもできず、おろおろと相互を見回すだけだった。


(なにやってんだ、天野田!)

 
 酒童は固唾を飲み込む。




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