羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
『最初は怖かったよ?
そんな不良が学校にいるのかー、なんて思ったし』
『俺とは思わなかったのか?』
『だって私、嶺子くんの顔は知ってたけど、その噂の人とは思わなかったし。
それに人柄からして、そんな人じゃなさそうだし。
噂と一致しないじゃん』
だから、私は信じてないよ。
陽頼は言い募った。
彼女は人間関係を保つために必要なお世辞しか言わない。
あとは単純すぎるほどに正直だ。
だから酒童は、確信した。
陽頼がいま言ったことは嘘ではない、と。
『それに、そんな極悪人だったら、私のわがままなんかに付き合ってくれなかっただろうし』
『べつに、わがままじゃあ、ねえけどなあ……』
『あ、それと』
陽頼と話していると、彼女はときどきふっと思い出したように話題を切り替える。
遮られ、酒童は口をつぐんだ。
『天野田くん以外に友達がいない、っていうの、訂正ね』
『どういうことだ?それ』
『私も、全くの赤の他人じゃないもの』
陽頼は陽気に言った。
酒童の首に腕を回し、しっかりと掴まりながら。
その腕は暖かく、それでいて軟弱なものだった。
鍛えられて筋張った酒童にとって、それはとても安心感のあるものであった。
この時点の酒童と陽頼は、まだ友達同士という関係だった。
彼らが恋人の関係になるのは、そこから数ヶ月後の話である。