羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》


 天野田は自慢げに鼻を鳴らすと、拠点の自動ドアの前に立ち、さっさと中へ入って行った。


 3階だて拠点の中は、地方の市役所と同じくらいの坪数だ。

隊員全員が入るには、ちょうどいい広さである。

 入ってすぐの場所には、トイレと喫煙室が面している。

その廊下を直進した先には階段があり、右折すれば、広めのトレーニングルームがある。


 ここは2部屋に分かれており、トレーニングルームのもう半分が、柔道場形式の畳だ。


中学と訓練場を卒業して間もない頃は、暇があれば、よくここにきて修練に励んでいた。


 しかし、今はトレーニングをしている場合ではない。

酒童と天野田は、この建物の3階にある会議室へと赴かなくてはならなのだ。


 エレベーターを使おうとする天野田に対し、酒童は階段の段差に足をかけていた。


「エレベーター使わないの?」


 これは珍しい、とばかりに、天野田が瞳孔を見開く。


「階段で行ったほうが早いだろ」

「体力を消耗するだけじゃないのかい?
どうせ時間は有り余ってるんだし、楽していこうよ、楽して」


 天野田の悠長な言葉に、酒童は腕時計で時間を確認する。

彼の言うとおり、まだ会議の時間まで1時間はある。

エレベーターを使うくらいに、そこまで時を費やしたりはしないだろう。

酒童はそう思って、階段を登るのをやめる。


 エレベーターの中は、長身の酒童には狭く感じる。

何しろ、基本的にエレベーターを使わない生活が主なため、この乗り物にはどうしても慣れない。

楽といえば楽なのだが。


< 34 / 405 >

この作品をシェア

pagetop