羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
天野田は自慢げに鼻を鳴らすと、拠点の自動ドアの前に立ち、さっさと中へ入って行った。
3階だて拠点の中は、地方の市役所と同じくらいの坪数だ。
隊員全員が入るには、ちょうどいい広さである。
入ってすぐの場所には、トイレと喫煙室が面している。
その廊下を直進した先には階段があり、右折すれば、広めのトレーニングルームがある。
ここは2部屋に分かれており、トレーニングルームのもう半分が、柔道場形式の畳だ。
中学と訓練場を卒業して間もない頃は、暇があれば、よくここにきて修練に励んでいた。
しかし、今はトレーニングをしている場合ではない。
酒童と天野田は、この建物の3階にある会議室へと赴かなくてはならなのだ。
エレベーターを使おうとする天野田に対し、酒童は階段の段差に足をかけていた。
「エレベーター使わないの?」
これは珍しい、とばかりに、天野田が瞳孔を見開く。
「階段で行ったほうが早いだろ」
「体力を消耗するだけじゃないのかい?
どうせ時間は有り余ってるんだし、楽していこうよ、楽して」
天野田の悠長な言葉に、酒童は腕時計で時間を確認する。
彼の言うとおり、まだ会議の時間まで1時間はある。
エレベーターを使うくらいに、そこまで時を費やしたりはしないだろう。
酒童はそう思って、階段を登るのをやめる。
エレベーターの中は、長身の酒童には狭く感じる。
何しろ、基本的にエレベーターを使わない生活が主なため、この乗り物にはどうしても慣れない。
楽といえば楽なのだが。