羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



2



「おや、人だぞ」

「本当だ、人がいやがる」

「なにしにきたんだ」


 深夜の槿花山には、当然ながら人はいない。

もちろん、その山の頂にそびえる城にも、人はいない。

 しかしそこには、人でも獣でもない、異形のものが屯している。

身の丈が人の子ほどしかない小型の妖たちは、階段で天守閣を目指す2人の人を、四方八方から物珍しげに眺めている。


(久しぶりに妖を見たな)


 酒童は暗中で光る金色の目玉たちを見て思う。

 この眼で妖を見たのは、実に7年ぶりだ。

 この日本には、妖を目に映す者と、そうでない者がいる。

 だいたい日本人の5分の1は、妖を視ることができるという。

 昔の言葉でいえば“見鬼”というものだ。


―――妖がその気になって姿を表せば、視えない者にだって、その異形の姿が見えるようになるのだが。



「気を引き締めなさい。
もう少しで天守閣に着きますよ」


 鬼門にたしなめられ、酒童は慌てて早足になる。

 会議をするだけ、のはずだが、城に近づけば近づくほど、鬼門は殺気立っているようだった。

 話をしに行くというよりは、戦でもしに行くようである。





< 346 / 405 >

この作品をシェア

pagetop