羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
2
「おや、人だぞ」
「本当だ、人がいやがる」
「なにしにきたんだ」
深夜の槿花山には、当然ながら人はいない。
もちろん、その山の頂にそびえる城にも、人はいない。
しかしそこには、人でも獣でもない、異形のものが屯している。
身の丈が人の子ほどしかない小型の妖たちは、階段で天守閣を目指す2人の人を、四方八方から物珍しげに眺めている。
(久しぶりに妖を見たな)
酒童は暗中で光る金色の目玉たちを見て思う。
この眼で妖を見たのは、実に7年ぶりだ。
この日本には、妖を目に映す者と、そうでない者がいる。
だいたい日本人の5分の1は、妖を視ることができるという。
昔の言葉でいえば“見鬼”というものだ。
―――妖がその気になって姿を表せば、視えない者にだって、その異形の姿が見えるようになるのだが。
「気を引き締めなさい。
もう少しで天守閣に着きますよ」
鬼門にたしなめられ、酒童は慌てて早足になる。
会議をするだけ、のはずだが、城に近づけば近づくほど、鬼門は殺気立っているようだった。
話をしに行くというよりは、戦でもしに行くようである。