羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》



「班長⁉」


 酒童は勢いよく立ち上がり、鬼門に駆け寄る。

 ごほっ、と咳き込む鬼門だったが、口の端から垂れた血を拭うと、まだ余力は残っているとばかりに、九鬼を睨みつける。


「―――威勢だけは一丁前、か。
24年前となんら変わらんな」


 九鬼が吐き捨てた。


「なにをするんですか」


 鬼門の肩を支えつつ、酒童はとうとう九鬼に対して、わずかな憤怒を声に表す。


「その男が邪魔だった。それだけだ」

「それは、理由になりません」

「そいつはどけと言ってどく男ではない。
だから力ずくでやっただけさ」


 九鬼の返答は理不尽だった。

 妖の常識ではどうなのか分からないが、人の常識でいえば、九鬼のやり方は無茶苦茶だ。

 酒童も半妖であるが、少なくとも24年間は人間社会で生活をして来たから、人間としてそれくらいは分かる。

 酒童は鬼門の前に立ち、九鬼に挑むように仁王立ちする。

酒童は日本人の平均身長と比較すると、かなりの長身だ。

脚の長い九鬼さえも、酒童を小さく見上げている。


「……細っこいのに、身の丈だけは立派になったな」


 酒童とは面識がないはずの九鬼が、そんなことを口にした。





< 359 / 405 >

この作品をシェア

pagetop