羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「班長⁉」
酒童は勢いよく立ち上がり、鬼門に駆け寄る。
ごほっ、と咳き込む鬼門だったが、口の端から垂れた血を拭うと、まだ余力は残っているとばかりに、九鬼を睨みつける。
「―――威勢だけは一丁前、か。
24年前となんら変わらんな」
九鬼が吐き捨てた。
「なにをするんですか」
鬼門の肩を支えつつ、酒童はとうとう九鬼に対して、わずかな憤怒を声に表す。
「その男が邪魔だった。それだけだ」
「それは、理由になりません」
「そいつはどけと言ってどく男ではない。
だから力ずくでやっただけさ」
九鬼の返答は理不尽だった。
妖の常識ではどうなのか分からないが、人の常識でいえば、九鬼のやり方は無茶苦茶だ。
酒童も半妖であるが、少なくとも24年間は人間社会で生活をして来たから、人間としてそれくらいは分かる。
酒童は鬼門の前に立ち、九鬼に挑むように仁王立ちする。
酒童は日本人の平均身長と比較すると、かなりの長身だ。
脚の長い九鬼さえも、酒童を小さく見上げている。
「……細っこいのに、身の丈だけは立派になったな」
酒童とは面識がないはずの九鬼が、そんなことを口にした。