羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
十六の半:“にんげん”
【酒童の語り】
1
九鬼―――彼が何と言ったのか、俺は一瞬だけ分からなかった。
そしてわかった瞬間に、凍りつく。
九鬼の肩越しには、瞠目している地区長がいる。
視界の端では、鬼門班長が真っ青になって、ただ悔しげに唇を噛み、うつむいている。
自分の生みの親が誰だったのか、自分が半妖であると知るまではなにひとつ知りもしなかった。
母親はとうに死んでしまったということは最近になってようやく知った。
しかし父親は死んでいなかったようだ。
だがなぜか、俺は今この瞬間が、感動の再会とは思えなかった。
なぜか、嬉しくない。
その理由は、彼が鬼門班長に不条理な暴力を行使したかからもしれないし、はたまた常識に沿わない素行の悪い人物だからかもしれない。
……もしくは、俺を鬼として生み出した、“鬼の遺伝子の配偶者”だからかもしれない。
しばらくすると、九鬼は俺から離れて、妖の方々に向き直る。
「おのれらは今、“レイジ”を生かすか殺すかの審議をしておるそうだな」
九鬼は妖たちに向かって問いかける。
「いくら俺が鬼でも、やはり息子は可愛いからのう。
レイジを殺す以外に、遺伝子汚染を食い止める策を持ってきたのだ」
どうやら九鬼は、最初から耳をそばだてて会議を聞いていたらしい。
今回の話の内容を悉く把握しているようだった。