羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「生かそうが殺そうが好きにするがいい。
そう言ったのはおのれであろう、九鬼よ」
白澤が返す。
いつにそんな話をしたのか、俺は詳しくは知らないが、その時の九鬼にとって、俺の命の処遇などどうなっても良かったらしい。
「はて、そんなこと言いましたかな?」
九鬼はわざとらしく、しらばっくれる。
「とぼけるな。
はなからせがれなどどうなっても良いと思うておったくせに」
「もちろん、人の世で生まれて、生ぬるい世界でぬくぬくと育ったような子供には興味はないさ。
だが鬼の子として生きることにするなら、話は別だ。
強い鬼ほど誇りなことはない」
要するに九鬼は、俺が自分の息子だからではなく、単純に強い鬼だからという理由で生かしておきたいらしい。
「つまりなにが言いたいのだ、九鬼よ」
空亡が割ってはいる。
「レイジの代で鬼の血を絶やしてしまえばよいのだ。
遺伝子汚染の原因は交配であろう。
ならばこれ以上の交配を防げば良いのだ」
自分を生み出しておいて、九鬼は無責任なことをいう。
俺は怒るでもなく落胆するでもなく、ただそう思う。
「連れ合い、家族、遊び女、友人。
交配に繋がりかねん者をレイジの周りから絶やしてしまうのさ。
―――最悪、レイジに関わる者をすべて消してしまえばよい」