羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
九鬼が、父であるはずの鬼が、そんな言葉を口にした。
長らく顔を合わせていなかったとはいえ、俺は彼の子なのだ。
それなのに彼は、俺から全てを奪えと妖たちに指示している。
「そ、そうです」
そこで、妖の群の中からぽつりと賛同の声が上がる。
「そんなに彼奴を殺すのを躊躇うなら、いっそ、これ以上の種を巻かぬようにしてしまえば」
「そうだ。
それでよろしいではありませんか、空亡さま」
妖たちが次々と賛成の意を表す。
「―――酒童くん」
地区長が俺の肩に手を置いてくる。
けれど俺はその声になにも返答することなく、ただ、沈黙していた。
―――なんなんだ、こいつらは。
そんな憤慨の念だけが、ふつふつと湧いていた。
味わったことのない感情だ。
だが、どこか馴染みやすい。
わけのわからない感情ではなくて、はっきりとした感情だった。
―――〝憎悪”。
この時、俺の体を支配したものは、これだ。
憎い。
憎い。
俺をゴミのように見る妖たちも。
人の意見など問答無用で、勝手に俺の命の左右を決める会議も。
息子の命も顧みない、父親も……。
自己中心で醜いものが込み上げ、眉がどんどんと額に皺を寄せる。
歯が軋む。
指先が手のひらに食い込む。
いままでに感じなかったそれは、堰を切って溢れる。
深い嫌悪感の濁流が身体中を駆け巡る。
自分のことなんて、俺はあんまり深く考えたことはなかった。
俺が嫌な目にあったとして、それが遠因で誰かが幸せになるなら、悪いことはないと思っていた。
だが、自分の周囲の人を犠牲にして、彼らに安泰をくれてやる気はなかった。
俺を殺して交配を食い止めるというなら、まだ、最低の次くらいにましだ。
俺を周りに手を出そうというのなら、それこそまさに“最低”の位なのだ。
これより悪いものなど、今の俺にはない。
「……そんなことしてみろ」
俺は唸る。