羅刹の刃《Laminas Daemoniorum》
「酒童さん」
鬼門班長が強く俺の肩を掴んでくる。
俺は何も返さず、不遜にも班長の手を冷たく振り払うと、二歩三歩と妖たちの群れの前に歩み出た。
深夜の城内は暗い。
半ば博物館と化した城であるが、やはり景観保護のためか、電灯は取り付けられていない。
だから当然、夜は暗いのだ。
今は妖たちが持ち込んだと思われる僅かな灯篭からくる明かりによって、なんとか部屋の中は見えている。
そんな少数の灯篭が照らすだけの暗い部屋の中で、右手に携えられた刀の刃が、灯篭の灯りを弾いて爛々と光る。
「なんのつもりだ」
妖の群れの中で“小物”が一匹、そう吠えたてた。
―――なんのつもり?決まってんだろ。
俺の脳裏で、何かがそう嗤った。
俺は正眼に刀を構え、眼前にいる一匹の鬼に刃を向ける。
「……そんなことをしたら許さない」
俺は感情のみに任せてそう言った。
「なに」
白澤が口を尖らせる。
その白銀の瞳を睨み付け、俺は静かに返す。
「……あなたたちは、さっきから、なんなんですか。
聞いてりゃ、人のことを汚染の種だの殺しても良いだの。
挙句には、生かしとく代わりに俺の周囲の人を消すですか」
口が震える。
こんなことは嘘でも口にしたことはない。
だが溢れる感情が、抑えきれず言葉となる。
言葉にすると、俺はおのずとその言葉を噛みしめてしまう。
俺は本当に、彼らにとって邪魔なものでしかないのだ。
言葉にすればするほど、俺はそれを実感した。
そして実感すればするほど、目玉の奥に何かが溜まった。